現地人が教えるロシアで人気のボルシチ店5選

ロシアといえば、深紅の美しい色合いで知られる「ボルシチ」の本場として世界中に親しまれています。厳しい寒さのロシアで生まれたこの温かいスープは、単なる料理を超えてロシア人の魂の食べ物として愛され続けています。ビーツを主原料とした鮮やかな色彩と、野菜と肉の旨味が溶け合った深い味わいは、ロシア料理の代表格として、世界中の美食家たちを魅了してきました。
そこで今回は、モスクワ在住12年のアレクサンドラさん(仮名、ロシア人)に、観光ガイドには載っていない、現地人だからこそ知るロシアのボルシチ文化と本当に美味しいボルシチ店を5つ教えてもらいました。ボルシチの歴史から正しい食べ方まで、ロシアのボルシチ体験を完全ガイドします。
ロシアのボルシチ文化の基本と背景
――ロシアのボルシチ文化って、ロシア人からするとどんな意味を持ってるの?簡単に説明してもらえる?
ボルシチは、私たちロシア人にとって「母の愛」そのものを表す特別な料理なんです。どんなロシア人も、子供の頃から母親やおばあちゃんが作ってくれたボルシチの味を覚えていて、それが「故郷の味」として心に刻まれているんです。
ボルシチの起源は実は古くて、9世紀頃の東スラヴ民族の時代まで遡ります。もともとは「ボルシチェヴィク」という野草を使ったスープが始まりで、後にビーツを使うようになったんです。特にウクライナ地方で発達して、それがロシア全土に広まったという歴史があります。
ロシアの厳しい冬を乗り切るために、栄養価の高い野菜をたっぷりと使ったボルシチは、まさに「生命の源」のような存在だったんです。各家庭に代々受け継がれるレシピがあって、それぞれの家の「ママのボルシチ」が最高だと信じているのがロシア人なんです。
ロシア正教の文化とも深く関わっていて、断食期間中でも食べられる「ポストニー・ボルシチ」(精進ボルシチ)があります。これは肉を使わずに野菜だけで作るもので、信仰と食文化が密接に結びついているんです。
現代でも、ロシア人にとってボルシチは「ホーム・クッキング」の象徴で、レストランで食べるボルシチよりも、家庭で作るボルシチの方が価値があると考えられているんです。
――ロシアのボルシチの特徴や、他の国のボルシチとの違いは?
ロシアのボルシチには、実は地域によって大きく異なるスタイルがあるんです。大きく分けて「モスクワ風」と「ウクライナ風」、そして「シベリア風」があります。
モスクワ風ボルシチは、牛肉をベースにした透明に近いスープで、ビーツの色は控えめです。野菜は細かく切られていて、上品で洗練された味わいが特徴なんです。
ウクライナ風ボルシチは、より濃厚で赤い色が鮮やかで、豚肉やベーコンを使うことが多いです。「サーロ」(豚の背脂)でニンニクを炒めて風味をつけるのが特徴的ですね。
シベリア風ボルシチは、厳しい寒さに対応するため、より具だくさんで栄養価が高く作られています。
他の国のボルシチと比較すると、ポーランドのボルシチは酸味が強く、リトアニアのボルシチは冷製だったりします。でも、ロシアのボルシチは必ず温かくて、「スメタナ」(サワークリーム)を加えるのが特徴的です。このスメタナが、ボルシチの酸味をまろやかにして、クリーミーな味わいを演出するんです。
ロシアでは、ボルシチは必ず「黒パン」と一緒に食べます。この組み合わせは何百年も変わらない伝統で、黒パンの酸味とボルシチの甘酸っぱさが絶妙にマッチするんです。
現地人おすすめ!人気のボルシチ店5選
1. Café Pushkin(カフェ・プーシキン)- モスクワ
――まず最初におすすめのボルシチ店を教えて
Café Pushkinは、1999年にオープンしたモスクワで最も有名な高級ロシア料理レストランです。19世紀の貴族の邸宅を再現した豪華な内装で、まるでトルストイの小説の世界に迷い込んだような体験ができるんです。
ここのボルシチは「クラシック・モスクワ・ボルシチ」と呼ばれていて、帝政ロシア時代のレシピを忠実に再現したものなんです。最高級の牛肉を48時間かけてじっくりと煮込んだブイヨンは、深いコクと上品な味わいが特徴です。
Café Pushkinのボルシチの特別なところは、ビーツの使い方なんです。新鮮なビーツを別途調理して、最後にスープに加えることで、鮮やかな色と自然な甘みを保っているんです。一般的なレストランでは缶詰のビーツを使うことが多いんですが、ここでは手間をかけて生のビーツから作っているんですよ。
スメタナも自家製で、濃厚でクリーミーな味わいが、ボルシチの酸味と完璧にバランスされています。伝統的な黒パンも焼きたてで提供されて、まさに「帝政ロシアのボルシチ」を現代に蘇らせた逸品です。
場所: モスクワ中心部 Tverskoy Boulevard 26A
営業時間: 月-日 24時間営業
おすすめメニュー: クラシック・モスクワ・ボルシチ(1,200ルーブル)、ビーフストロガノフ、ロシアンティー
2. Московские Сезоны(モスクワの四季)- モスクワ
――2番目のお店は?もう少し庶民的で現地の人が通うような店は?
Московские Сезоны(モスクワの四季)は、地元のモスクワっ子に愛され続けている家庭的なレストランなんです。1970年代から続く老舗で、「本当のロシア料理」を手頃な価格で提供している庶民の味の代表なんですよ。
ここのボルシチは「バブーシュカ・ボルシチ」(おばあちゃんのボルシチ)と呼ばれていて、まさに家庭で作るボルシチそのものの味なんです。新鮮なキャベツ、人参、玉ねぎ、そして自家製のビーツペーストをたっぷりと使って、毎朝4時間かけて煮込んでいるんです。
特徴的なのは、季節によって具材が変わることなんです。夏は新鮮なディルとパセリをたっぷりと、冬はじゃがいもを多めに入れて、まさに「四季」の名前通りの工夫がされているんですよ。
Московские Сезоныのボルシチで特別なのは、最後に加える「ザジャルカ」なんです。これは玉ねぎとビーツを炒めたもので、家庭料理では必ず使われる技法です。これを加えることで、ボルシチに深い風味とコクが加わるんです。
価格も良心的で、一杯300ルーブル程度。地元の労働者や学生、家族連れで常に賑わっていて、本当のモスクワの日常を感じられる場所なんです。
場所: モスクワ・アルバート地区 Novinsky Boulevard 12
営業時間: 月-日 11:00-23:00
おすすめメニュー: バブーシュカ・ボルシチ(300ルーブル)、ペリメニ、黒パン
3. Тарас Бульба(タラス・ブルバ)- モスクワ・サンクトペテルブルク
――3番目のお店はどこ?ウクライナ風ボルシチの美味しい店は?
Тарас Бульба(タラス・ブルバ)は、ウクライナ料理専門のチェーンレストランで、本格的な「ウクライナ風ボルシチ」が食べられる名店なんです。ゴーゴリの小説から名前を取ったこのレストランは、ウクライナの伝統的な内装と雰囲気で、本場のボルシチ文化を体験できるんです。
ウクライナ風ボルシチの最大の特徴は、その鮮やかな赤い色と濃厚な味わいなんです。ここでは「サーロ」(豚の背脂)でニンニクを炒めた「シュクヴァルカ」という技法を使って、独特の風味を出しているんです。これがウクライナ風の真骨頂なんですよ。
Тарас Бульбаのボルシチには、必ず「パンプーシュキ」という小さなガーリックパンが付いてきます。これをボルシチに浸して食べるのがウクライナ式で、ガーリックの香りがボルシチの味を一層引き立てるんです。
ここのボルシチで特別なのは、豆類も入っていることなんです。白いんげん豆が入っていて、これが食べ応えと栄養価を高めているんです。野菜も大きめにカットされていて、ロシア風よりもより田舎風で素朴な味わいが楽しめるんですよ。
スメタナも特製で、ウクライナの伝統的な製法で作られた、より酸味の強いものを使用しています。これがウクライナ風ボルシチの特徴的な味を作り出しているんです。
場所: モスクワ・サンクトペテルブルク複数店舗
営業時間: 店舗により異なる(多くが11:00-24:00)
おすすめメニュー: ウクライナ風ボルシチ(450ルーブル)、パンプーシュキ、ヴァレニキ
4. Северный Модерн(セヴェルヌィ・モデルン)- サンクトペテルブルク
――4番目のお店は?
Северный Модерн(セヴェルヌィ・モデルン)は、サンクトペテルブルクの歴史的中心部にある、帝政ロシア時代の宮廷料理を再現している高級レストランなんです。エルミタージュ美術館からも近く、帝都ペテルブルクならではの洗練されたボルシチが楽しめるんです。
ここの「ペテルブルクスキー・ボルシチ」は、エカテリーナ女帝時代の宮廷レシピを基にした、極めて上品で繊細な味わいが特徴なんです。牛肉と子牛肉の両方を使った贅沢なブイヨンに、厳選された野菜だけを使用しているんです。
Северный Модернのボルシチの特別なところは、最後に加える「ドライシェリー」なんです。これは帝政時代に宮廷で行われていた技法で、スープに深みと芳醇な香りを与えるんです。一般的なボルシチでは使わない技法なので、ここでしか味わえない特別な味なんですよ。
野菜のカットも芸術的で、すべて均一に美しく切られていて、まさに「宮廷料理」としての美しさを追求しているんです。器も帝政ロシア時代のレプリカを使用していて、視覚的にも楽しめるんです。
サンクトペテルブルクは北の都市なので、より温かみのある味付けになっていて、モスクワのボルシチとはまた違った魅力があるんです。白夜の季節に食べるボルシチは、特別な体験になりますよ。
場所: サンクトペテルブルク中心部 Nevsky Prospect 88
営業時間: 月-日 12:00-24:00
おすすめメニュー: ペテルブルクスキー・ボルシチ(800ルーブル)、キャビア、ロシアンボッカ
5. Бабушкин Секрет(バブシュキン・セクレット)- エカテリンブルク
――最後の5番目のお店は?
Бабушкин Секрет(おばあちゃんの秘密)は、ウラル地方のエカテリンブルクにある、シベリア風ボルシチの専門店なんです。極寒のシベリアで生まれた、最も栄養価が高く具だくさんのボルシチが味わえる隠れた名店なんですよ。
シベリア風ボルシチの特徴は、その豊富な具材なんです。牛肉、豚肉、そして時には鶏肉まで入っていて、野菜も通常の2倍以上の量が使われているんです。厳しい寒さを乗り切るための「生存食」として発達したので、カロリーと栄養価がとても高いんです。
Бабушкин Секретのボルシチで特別なのは、「グリブィ」(きのこ)がたっぷりと入っていることなんです。シベリアの森で採れる野生のきのこを使っていて、これが独特の風味と食感を生み出しているんです。
また、シベリア風の特徴として「カーシャ」(おかゆ)を入れることがあるんです。大麦やそば粉を使ったカーシャがボルシチに加わると、より満腹感があって、寒い地域ならではの工夫なんですよ。
ここのボルシチは「バブーシュカのレシピ」をそのまま使っていて、添加物や化学調味料は一切使わずに、昔ながらの製法で作られているんです。野菜も地元のオーガニック農場から直接仕入れていて、本物の「田舎のボルシチ」が味わえるんです。
場所: エカテリンブルク市内 Lenin Avenue 45
営業時間: 火-日 10:00-22:00(月曜定休)
おすすめメニュー: シベリア風ボルシチ(350ルーブル)、グリブィスープ、自家製黒パン
ボルシチの正しい楽しみ方とマナー
――ロシアでボルシチを食べる時のマナーや食べ方で、観光客が知っておくべきことは?
ロシアでボルシチを食べる時には、いくつかの伝統的なマナーがあるんです。でも、基本的にはとても家庭的な料理なので、リラックスして楽しむことが一番大切なんですよ。
基本的な食べ方:
- スメタナを加える: テーブルに運ばれてきたら、まずスメタナ(サワークリーム)を自分の好みの量加えます
- 軽くかき混ぜる: スプーンでスメタナをボルシチに軽く混ぜ込みます
- 黒パンと一緒に: 必ず黒パンと一緒に食べます。パンをスープに浸して食べるのが伝統的なスタイルです
- ゆっくりと味わう: ロシア人は食事の時間を大切にするので、急がずにゆっくりと味わいます
ボルシチは「心の料理」と言われているので、家族や友人と会話を楽しみながら食べるのが正しいマナーなんです。一人で黙々と食べるよりも、周りの人と話しながら楽しむことが重要視されているんですよ。
――ボルシチの種類や、注文時のコツは?
ロシアでボルシチを注文する時は、まずどのスタイルのボルシチなのかを確認することが大切なんです:
主要なボルシチの種類:
- Классический борщ(クラシック・ボルシチ):最も一般的なスタイル
- Украинский борщ(ウクライナ風ボルシチ):より濃厚で赤い色
- Постный борщ(精進ボルシチ):肉を使わない野菜のみ
- Зелёный борщ(グリーン・ボルシチ):春の野菜を使った緑色のボルシチ
注文のコツ:
- 「Можно борщ с мясом?」(肉入りボルシチをお願いします)
- 「Со сметаной」(スメタナと一緒に)は必ず伝える
- 「С чёрным хлебом」(黒パンと一緒に)も追加で注文
レストランでは、ボルシチは通常「первое блюдо」(第一の皿、前菜)として分類されているんですが、具だくさんなので十分にメインディッシュとして楽しめます。量も多いので、軽食として注文することもできますよ。
ボルシチ体験をより深めるためのアドバイス
――観光客がロシアでボルシチを楽しむ時に、より本格的な体験をするためのコツは?
本格的なロシアのボルシチ体験をしたいなら、まずは地元の家庭的なレストラン「столовая」(ストロヴァヤ、食堂)を訪れることをおすすめします。観光地のレストランよりも、現地の人が日常的に通う場所の方が、本当のボルシチの味を楽しめるんです。
市場巡りも面白い体験ですね。モスクワの「ダニロフスキー市場」やサンクトペテルブルクの「クズネチヌイ市場」では、新鮮なビーツや野菜を見ることができて、ボルシチの材料について理解が深まりますよ。
ロシア人の家庭に招かれる機会があれば、ぜひ家庭のボルシチを味わってください。どんな高級レストランよりも、家庭で作るボルシチの方が美味しいと、すべてのロシア人が信じているんです。
ボルシチ作りの体験クラスに参加するのもおすすめです。モスクワやサンクトペテルブルクでは、観光客向けの料理教室があって、実際にボルシチを作りながらロシア文化を学べるんです。
――初心者におすすめの楽しみ方や注意点は?
初心者の方には、まずは「クラシック・ボルシチ」から始めることをおすすめします。これが最も一般的で、ロシアのボルシチの基本を理解するのに最適なんです。
スメタナの量は最初は少なめから始めて、自分の好みを見つけてください。ロシア人でも、スメタナをたくさん入れる人もいれば、少量しか入れない人もいるんです。正解はないので、自分の好みで調整してくださいね。
注意点としては、ボルシチは非常に温度が高いことが多いので、最初は少し冷ましてから食べることをおすすめします。また、ビーツの色が服に付きやすいので、白い服を着ている時は気をつけてください。
ロシア語での「スパシーバ」(ありがとう)を覚えておくと、レストランのスタッフや地元の人たちに喜ばれますよ。ボルシチを褒める時は「Очень вкусно!」(オーチェニ・フクースナ、とても美味しい!)と言えば、きっと笑顔で応えてくれるはずです。
ボルシチと一緒にロシアンティーを注文するのも良いアイデアです。食後の温かいお茶は、ロシアの食事文化の重要な部分なんです。
まとめ
ロシアのボルシチ文化は、厳しい自然環境の中で生まれ、何世紀にもわたって家族の愛と伝統によって受け継がれてきた、ロシア民族の魂の料理です。地域ごとの個性豊かなバリエーションは、ロシアの広大な大地と多様な文化を反映しており、一杯のボルシチを通じてロシアの歴史と文化の深さを体験することができます。
今回紹介した5つのお店は、それぞれ異なるスタイルと地域性を代表する名店ばかり。帝政時代の宮廷料理から庶民的な家庭の味まで、ロシアのボルシチ文化の多様性と豊かさを体験できる場所です。
重要なのは、ボルシチを通じてロシアの人々の暮らしと文化に触れ、その温かさと深さを感じることです。正しい食べ方を覚えて実践し、現地の人々との交流を楽しめば、きっとロシアという国への理解も深まるはずです。
今回紹介したボルシチ店のまとめ:
- Café Pushkin – 帝政ロシアの宮廷料理を再現する最高級店
- Московские Сезоны – 地元愛される庶民派の家庭的レストラン
- Тарас Бульба – 本格ウクライナ風ボルシチの専門店
- Северный Модерн – サンクトペテルブルクの洗練された宮廷風
- Бабушкин Секрет – シベリア風の具だくさん栄養満点ボルシチ
ロシアのボルシチ体験は、きっと忘れられない心温まる思い出となるでしょう。Приятного аппетита!(プリヤートナヴァ・アッペチータ、召し上がれ!)